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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 033
HIRONOBU KUBOTA
May 23, 2017

r-lib | r-lib編集部 × 久保田弘信 戦場ジャーナリストの後ろ姿 #1

GENRESArrow国際協力

戦場ジャーナリストの後ろ姿 #1

戦場ジャーナリストの久保田弘信さんが、友人のシリア難民に会いにオーストラリアに行くというので、10日間の密着取材をした。仕事に対する姿勢や、リラックスの仕方まで幅広くその哲学を垣間見る機会を得た。そして期せずして、戦場ジャーナリストに至る原点までを辿る旅となった。その貴重な時間を記した特別連載企画。

Reported by r-lib editorial


地球上で一番危ない仕事はなんだろうと考えたときに、そのひとつに戦場ジャーナリストは必ず挙がるはずだ。

丸腰で戦地にいるわけだから傭兵よりも危険だし、スパイと勘違いされることもあるので、敵と味方の区別も難しい。現地の案内人だと思っていた人に金で裏切られてテロ組織に人質として売られてしまう、なんてこともたまに聞く話だ。

特定秘密保護法みたいな法律で、まっさきに生贄になるのもおそらく戦場ジャーナリストのような職業だろう。機密情報に近いところにいるので、政権や軍隊に都合の悪い情報に触れる機会も多い。

つまり、戦場ジャーナリストの危険というのは、誰もが理解してるような銃撃戦や爆撃の恐怖だけではないということだ。


メディアを取り巻く環境も変化していて、今は市民ジャーナリズムの時代だ。シリアの激戦地の惨状は、現地の一般市民がSNSに投稿することで簡単に拡散できてしまう。

挙げ句の果てには、遠くの世界で起きてる戦争なんて視聴率が取れないから、命を賭けて取材してきたものが二足三文の値段でしかメディアに買い取ってもらえない。

こんな状況の中、「取材に行くと赤字にしかならない」というのに何故それでも行くのか。

いや、何故それでも行くのかというのは、ちょっと外れた問いに思える。結局「そこに山があるからだ」みたいなことしか答えようがないのは目に見えている。そうやって、すぐに言葉にしてしまうと、その言葉に納得したり、理解不能だとはねつけることにしかならない。あるいは「深いなぁ~」というくらいの感想しか出てこない。

久保田さんは、壮絶な経験をたくさんしているし、物凄くいろんなことを知っているのに、あまり多くを語らない。たまに引き出せたエピソードや考えは、映画や小説にできるくらいのものなのに、それを積極的に語って発信しようということを一切しない。写真家だからなのかもしれないが、言葉で語ることを信用していないようにも感じる。言葉にした途端に真実が遠のいていく感覚を持ってるのかもしれない。


だから僕は、久保田さんの海外取材に密着し、10日間一緒に過ごした。

そうすることで、あくまで僕のフィルターを通してだけど、言葉にできるかもしれないと思ったから。そして実際、多くのものを僕は得たし、僕の言葉で語りたいことはやまほどあるけれど、これは自分の中だけで留めておこうと思う言葉もいくつかあった。きっと普段これを語らない理由は、語ること以上に大切なんだと思えるものが。だからその全てをここに書くことはできないけれど、それでもできる限り戦場ジャーナリスト久保田弘信の姿を伝えてみたいと思う。





今回の目的は「友人に会いに行くこと」だった。

行き先は、最近アサド政権側が制圧したシリア内戦の最激戦地アレッポ、なわけもなく、そこからイラクに避難して、さらに第三国定住を認められてオーストラリアに移住できたシリア難民のお宅だ。さすがに、僕みたいな素人をいきなり戦場に連れて行ったら足手まといになるだけだ。

ところで、久保田さんは「友人に会いにいく」という言葉で表現する。僕は当然会ったことがないので、そういう表現はできないのだが、実はちょっと難民という言葉を使うことに抵抗がある。もちろん難民という言葉を回避して語るのは難しいので、日常でもよく使ってしまうのだが、自分の立場に置き換えると、そう呼ばれるのはあまりいい気がしない。自分がいわゆる難民になったときに「難民に会いに行く」とか言われても、「俺は難民以前に俺なんだよ!」という気持ちになるはずだから。

シリアやイラク、アフガニスタンに友達が多い久保田さんは、特定の人を指すような時は「友人」と呼び、広い範囲を示す場合にだけ便宜上「難民」という言葉を使い分けてしゃべっている。そんな友人に会いに行くことが今回の目的だ。

現在、オーストラリアのブリスベン近郊に住んでいる青年バーシャールとその母親は、イラクに避難している時に取材中の久保田さんと出会った。当時そこでは狭い家に何家族も鮨詰めの状態で暮らしていたらしい。そして、彼らはキリスト教徒なので、シリアはもちろん中東地域ではどの国でもマイノリティに所属することになる立場だった。息子のバシャールは名前こそアサド大統領と同じなのだけど、とても明るくて社交的な好青年だという話だった。

しかし、事前に僕が知っていた情報はそれくらいのもので、とにかく取材について行くことにした。今回は戦場というわけではなかったから、全く緊張感はないが、一応僕なりに仮に戦場だと仮定した場合、同行に値する者の条件を考えてみた。



・自分のアクションで周囲の環境に影響を与えるようなことは慎む

・久保田さんが僕の動向に注意を向けること自体、負担になるので、言動を信頼してもらい極力空気のような存在として付き添う

・取材に影響を与える可能性があるので、インタビュー以前にあまり個人的な話に立ち入らないようにする



結論からいうと、これらはあまりうまくいかなかった。僕は喫煙者なので、頻繁にタバコを吸いに席を外したし、最後の項目に関して言うと、どう接したら良かったか今も正解はわからない。自分の友人ではなく久保田さんの友人ということで、必要以上にセンシティブになっていたとは思う。複雑な状況にある人たちなので、不用意な発言で気分を害されたらまずいというのは常に念頭にあったし、普段の僕は質問から話を広げて仲良くなるので、結局それを封じてしまうと通常のコミュニケーションさえもうまく取れなかった。英語の問題が多少あるにしても、ちょっと遠慮しすぎたのかもしれない。

振り返るとそんな感じではあるが、そういう気持ちで今回の旅は始まった。



続き 



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久保田弘信

久保田弘信HIRONOBU KUBOTA

PROFILE

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岐阜県大垣市出身
大学で宇宙物理学を学ぶも、カメラマンの道へ。旅行雑誌の仕事を続ける中で、ストリートチルドレンや難民といった社会的弱者の存在に強く惹かれるようになる。1997年よりアフガニスタンへの取材を毎年行う。2001年のNYテロを契機に、本格的に戦地の報道に関わりはじめる。アフガニスタン・カンダハルでの取材や、イラク・バグダッドにおける戦火の中からの報道を通して、自らの想いを世界に発信し続けている。近年はシリアでの取材に力を注ぎ、また日本での講演活動も精力的に行っている。

by r-lib編集部
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