# 022
ATSUSHI BITO
February 21, 2015

GENRES
教育地域
ブラックジャック体験を通して好きなことを見つけて欲しい
菊名記念病院で心臓血管外科部長をされている尾頭先生。休みの日を利用して、全国の子ども達に出張授業をしています。本業では死に接する機会が少なくないので、リフレッシュとして子ども達との触れ合いは貴重だそうです。「社会貢献と言っても、結局は自分のためにやっていて、それはそれでいいのかもしれないですね」という言葉にはどのような真意が込められているのでしょうか。
Reported by Sanae Kakei
— よろしくお願いします。尾頭先生は現在、菊名記念病院で心臓血管外科部長としてご活躍されているということですが、病院でのお仕事以外に出張授業というのをやられているということなので、今日はそちらのお話を伺ってみたいと思います。
よろしくお願いします。出張授業は1、2年前から始めて、心臓血管外科のスタッフをメインに、小学校へ行って医者が普段どのような仕事をしているかをお話ししています。例えば、手術に使う道具とか、聴診器、手術用のガウンや、マスク、帽子などを持って行って、小学生の子ども達にお医者さんは普段こういう仕事をしているんだよ、というお話をさせてもらっています。実際に話をするのは15分ぐらいで、あとは子ども達が帽子を被ってガウンを着てマスクをして、手術のような事を体験します。例えば外科医が皮膚を縫う練習をするために、人の皮膚に似せて作ったスポンジがあるんですけど、それに針や糸といった実際の手術道具を使って縫ってみる、という体験をしてもらっています。聴診器を持つのも初めてという子がほとんどですから、自分や友達の心臓の音を聞いてもらったりもします。そういったことが活動内容ですね。
— それはとても貴重な体験ですね。どのようなきっかけで始められたんでしょうか?
きっかけは心臓血管外科の部長になった時、民間病院として心臓血管外科をどうやって盛り上げていこうかと考えていたからですね。普段の診療と別に、何か特徴を出せたらいいなと思っていたんです。そこでまずは、Facebookで心臓血管外科のページを作って、病院の外の方々に情報を発信する場を作りました。活動内容や手術に関することは普段あまり公表しにくいものですが、公に出せるところまで出して発信しています。するとFacebook経由で放課後NPOアフタースクールさんから声をかけていただいたんです。
— Facebookのページを見てですか?
そうです。そこは子どもたちの放課後にいろんな課外授業を提供して、放課後を充実させようという活動をしているNPOさんなんですね。放課後にいろんな業界の人に講師として授業をしてもらっているんですが、お医者さんの仕事紹介という授業を1回やってみませんか、というメッセージを頂いたのが最初のきっかけです。それでやってみたら、意外に面白かったんですね。親御さんからも好評で、またやってくださいという声が掛かって、次から次へという流れですね。もう一つ大きなきっかけは、住友生命さんがやられているCSRの活動で、日本全国色々な学校の子どもたちにいくつかの課外授業のプログラムを提供しますというのがあるんですが、そこのプログラムの一つになったというのも、出張授業が継続につながった大きな出来事でしたね。
子どもたちにとっては初めてのブラックジャック体験
— Facebookで発信して、そこから色々声がかかって、広がっていったというのがすごいですね。
そうですね。一番最初のきっかけはそれでしたね。ちょっと変わったものをやってみようかな、と。別にヒマなわけじゃないですよ(笑)。
— 忙しいのにやられるところがすごいです(笑)。病院の先生のキャラクターって全然わからないので、Facebookを通してキャラクターがわかるようになると先生が身近に感じますね。お医者さんだからものすごい雲の上の存在というか、そんなイメージを持っている人が多いと思うんですけど。
このやり方が良いか悪いかは、まだわからないです。ただ我々心臓外科の特殊性は命を懸けた手術をやるということなんですね。すごく不安を抱えた患者さんが私どもの外来に来る時に、少しでもキャラクターや医局の中が見えたらいいかなと思っていたんです。それがきっかけとなって、不安を取り除けることもあるんじゃないかと。まぁ、あくまでFacebookも出張授業も、普段の診療が無い休みの日にやっていることです。自分の仕事をしっかりやった上で、それとは別にスパイスのようなものとしてやっていこうと思ったんです。
— 出張授業をされていて、子どもたちの反応はどうですか?
子どもたちの反応は、びっくりするぐらい激しいです(笑)。出張授業はこれまでに中野や横浜でやっていて、それとは別に三宅島や神戸にも行っているんです。
— 全国的なんですね。
そうなんです。全国展開になった理由は、住友生命さんが入ってくださったからなんですよ。こうやっていろんな地域でやっていると、その土地その土地で子どもたちのキャラクターが全く違って面白かったですね。関西はですね、うるさいです(笑)。うるさいというか、非常に元気な子どもたちです(笑)。東京の子はすごく大人っぽい、三宅島は非常に純粋な子どもたちでしたね。びっくりするくらい、みんな好奇心に溢れてキラキラ目を輝かせていましたね。ものすごく真剣にいろんな事を聞いてきますし。実際に針で縫って糸で結ぼうと言うとわぁーって寄ってきてね。
— 楽しそうですね!!私もやりたいです(笑)!!
楽しそうでしょ?最近、こういうブラックジャック体験をさせてくれる病院って増えているんですよ。地域の子どもたちを病院に呼んで、お医者さんや看護師さんの体験をさせるんです。でも僕らが他と少し違うのは、こちらが学校に行ったり、学童保育に行くという点ですね。そこがちょっと特徴的かなと思います。
— こちらから行くことで何か良い点はありますか?
良い点は、色々な子にこちらからプッシュできることですね。それは会いに行くからこそできることだと思います。集まってくださいと呼びかけるだけだと、それに興味がある限られた子だけになるじゃないですか。医療に全く興味がない子も、もちろんたくさんいるわけですが、そういう子たちとも触れ合えるという点が他とは違うと思いますね。例えば三宅島にはこれまでに計3回出張授業で行ったんですが、医療に興味がない子もたくさんいる所でもやっぱり子どもだからか、とても楽しんでくれるんですね。いろんな事が目新しくて、会った事もない人たちが見たこともない経験を教えてくれるという事は、子どもにとってすごく意義のあることだと思うんです。もしかしたらその中で、医療に興味を持つ子が出るかもしれないですしね。
外科医が実際に練習するスポンジを使って手術体験をする子どもたち