# 013
YOSHIMASA DAZE ARAI
November 20, 2014

GENRES
福祉
やらぬ善よりやる偽善
移植手術から半年で復帰して元気な姿を見せることで、同じように骨髄移植を受ける患者さんに勇気を与えられると思ったそう。無事に生き延びたら、もっと骨髄バンクに登録してくれるドナーを増やそうと誓って頑張ってきた。
Reported by Tomoko Tao
ー ドナー登録は具体的にどうすればいいのでしょうか?
献血のついでに、そのまま2ccだけ血を骨髄バンク用にもらって、それをデータバンクに登録する。すごい簡単ですよ、献血ルームで出来ます。
ー そうなんですね。特別なことをしないといけないのかなって思ってたんですけど。
そうそうみんなそう思っているから、そういうことをSNOW BANKを通じて伝えていかなきゃいけないと思っています。それを伝えていってドナー数を増やして、結果的に患者がスタートラインに立てるチャンスを増やして、助かる確率を上げていくっていうのがSNOW BANKの目的。患者が救われれば家族も救われるし、みんな救われる。
人生の中で「私にはあなたしかいないんです」って言ってもらえるチャンスってなかなか無い
ー 提供する側にとっても人生観が変わるきっかけになるかもしれないですよね。自分が提供するっていうことは、その向こう側に自分を必要としている命が危ない人がいるということじゃないですか。自分にヒットする患者さんがいて連絡がきた時に、普通に生きていたらあまり経験することがないくらい、自分が誰かを救えるという意識が生まれますよね。
提供した人に会うと逆にありがとうございますってよく言われるんですよね。提供出来るチャンスを与えてくれてありがとうって。お医者さんにも救えない命を救うチャンスをもらえたことはすごくありがたいって。だから、「もしもう一度ドナーが出来るとしたらやりますか?」という問いを一回提供した人に聞くと、ほとんどの人が「もう一回やります」って答えるんです。あんな素晴らしい経験がもう一度来るならぜひやりたいって。人生の中で「私にはあなたしかいないんです」って言ってもらえるチャンスってなかなか無いから、多くの人があなたしかいないということに気づいてないんですよね。それに改めて気づかされる機会なんです。
ー そんなに簡単に登録できるのであれば、マッチした患者さんがいたという連絡が来た時に、改めて提供するかしないかを考えてもいいわけですもんね。
うん、それが大事なんですよね。登録して連絡がきたら絶対提供しなきゃいけないってわけじゃないんです。とりあえず登録して、連絡がきたら、考える。でも登録してくれなかった考えるチャンスすら生まれない。だからそこを目指すためにSNOW BANKを使ってアプローチしようと思ったんです。スノーボードして、音楽かけて、飯食って、楽しんで、それを理由に知ってもらいたくて。理由はなんでもいいんですよね。まずは知って登録してくれて連絡きてから考えてくれれば。登録するだけでもチャンスと希望を患者に与えてくれてる訳だから。偽善だろうがなんだろうが登録しただけですべてがプラスになってる。
天候不順だったが多くの人が訪れた
トッププロたちのトークも盛り上がる
スノーボードだけではなく、ライブもある
ー 何年くらい活動されているんですか?
イベント自体は4年。骨髄バンクの活動自体は退院して1年くらいで始めたので5年くらい。退院から5ヶ月で雪山に行って、7ヶ月後にはもう撮影に復帰しました。
ー すごい!!そんなに早く復帰して大丈夫なんですか?そこまで「早く」復帰したいという気持ちの原動力は何だったんですか?
僕の病気って100万人に1人くらいしかならないんですけど、それって自分を100万人に1人の運の悪いやつと考えるか、この病気から立ち直るチャンスをもらった100万人に1人の選ばれたやつと考えるか、どちらかだと思うんですよ。僕は後者だった。ある意味チャンスだと思ったんです。そのチャンスを最大限に生かすんだったら、だらだら1年、2年かけてなんとなく復帰して良かったね、じゃなくて、凄まじい勢いで復帰したかった。骨髄移植受けた人は普通に社会生活に戻るのにだいたい1年くらい、長いと2年くらいの時間がかかる。ほんとに長い人だとずっと社会復帰できない人もいる。ネット検索するとそういう人の具合悪い話ばっかり前面に出ちゃってる。だったら僕がものすごい早さで復帰して、しかもそれが会社に復帰するレベルじゃなくて雪山でジャンプしたり、雑誌に出てるって言うレベルで復帰したらこれからの指針になるというか、1つの新しい道を作れるなって思ったんです。これは人生で1回しか無いチャンスだなって、だから絶対半年以内に復帰してやろうと思いました。
未来を見ると足下の崖が見えなくなってうまく飛べる。
ー 逆に落ち込んだ時にはどうやって自分のモチベーションを良い方向に持っていったんですか?悪いときって悪い方にばっかり考えちゃうものですよね。
1度考えるとそうなっちゃう。スノーボードやってる時に気がついたんだけど、撮影で崖や大きいジャンプ台から飛び降りる時は下が見えないから怖いんですね。でも怖いって思ったら僕はもうその日は飛ばない。飛んでる最中に嫌なことばかりをイメージしてるから絶対に失敗する。その時に僕が学んだのは、目の前の崖を見るんじゃなくてその先の未来を見るんです。この崖をパーンって飛んで、サーって滑り降りる、カメラマンたちがガッツポーズしたりライダー達が「いいね!!最高だよ!!」って言う。そういう成功したときのイメージを想像すると、目の前の崖が見えなくなる。未来を見ると足下の崖が見えなくなってうまく飛べる。それは闘病にも当てはまるんです。でもそれだけではどうにもならないこともありますよね。骨髄移植の場合はドナーの登録者数。だからそこはやっぱり改善していかなきゃいけない。
会場は子どもたちの笑顔でいっぱい
なにか1つのことに費やすことでそれが人生になっていくんだなって思います。
ー ご家族の存在も大きかったですか?
周りで支えてくれる家族や、当時の彼女で今の奥さんは大切な存在でしたね。放っておけば死んじゃう病気だよって言われてもなんかピンとこなかったんだけど、彼女とアパートや家具を探していた時に初めて自分が今までの自分と違うことに気付かされました。今までと違って家具を見ても「もしかしたらこの家具を使う未来は来ないんじゃないか」って思ってしまって。死が現実味を帯びてきたんです。そのとき僕の人生、まさに先が見えなくなっていました。だからまだ彼女っていう関係だったから、ちょっと関係を考え直さないかって話をしたんですね。そしたら、私はそんなに軽い気持ちで付き合ってない、さっさと病気を治して幸せにして下さいって怒ってくれた。そのときにハッとさせられましたね。病気ばっかり見て未来がないと思っていたのは自分だけだったんだなって。彼女は完全に未来を見据えていて、奥さんとして幸せにしてもらうイメージをちゃんと持ってたんです。だからなんでそんなに足下見てるのよって怒ってくれた時に凄く前向きになれて、移植手術を受けようと決意できました。
ー 先が見えない時に未来を見せてくれたのは今の奥さんだったんですね。dazeさんにとってのスノーボードとは?
僕にとってはスノーボードって単純にスポーツじゃなくて「全て」なんですよね。正直僕よりうまいライダーなんていくらでもいるけれど、僕がスポンサーつけてスノーボーダーとしてやっていけてるのは、ライフスタイルなど含めた自分の全てを見てくれているからなんです。スノーボードを僕のライフスタイルとして発信できるのは、僕がスノーボードに育てられたからだと思います。スノーボードに出会って全てが変わったし、1歩踏み出す勇気をもらったし、声に出して伝えることの大切さを学んだし、自分が伝えたいことを発信するツールももらえた。スノーボードで繋がった仲間には命すら救われた。スノーボード自体が人生というかライフスタイルの表現の全て。スノーボードと出会って今の自分の考え方が構築されたけど、別にスノーボードじゃなくても誰でも1つのことで学べることっていっぱいある。なにか1つのことに費やすことでそれが人生になっていくんだなって思います。
ー dazeさんのお話を聞いていると、背中を押してくれるいろんなきっかけがあったにせよ、1歩踏み出すことで世界って変わってくるんだなぁって実感しました。今日は本当に素敵なお話をありがとうございました。