# 013
YOSHIMASA DAZE ARAI
November 20, 2014

GENRES
福祉
やらぬ善よりやる偽善
100万人に1人の難病にかかるも骨髄移植を受けてプロスノーボーダーに復帰した荒井daze善正さん。復帰後はより多くの若者に骨髄バンクの存在を知ってもらうために、SNOW BANKというイベントを立ち上げて日々駆け回っています。その原動力はどこからきているのでしょうか。1歩を踏み出すための知恵に溢れた素敵な対談になりました。
Reported by Tomoko Tao
ー 今日はよろしくお願いします。まず荒井daze善正さんはプロスノーボーダーとしてご活躍されている一方で、SNOW BANKというイベントを立ち上げて骨髄バンクの啓発運動をされているということですが、そのへんのお話をご説明していただけますか?
はい、よろしくお願いします。僕は、普段はプロとしてスノーボードをやっているのですが、それとは別に「SNOW BANK 〜pay it forward〜」というイベントを立ち上げて骨髄バンクをもっと若い人に広く知ってもらおうという運動をしています。SNOW BANKの目的は一言で言うと、ドナー数を増やして患者のチャンスを生むことです。骨髄バンクには18歳から登録できて、20歳から55歳までしか提供できないという制限があるので、特に若者にアプローチしないといけないんです。そのためにSNOW BANKのイベントでは、オリンピック日本代表など、トップのプロスノーボーダーたちに代々木公園の特設のステージに集まってもらい、そこで雪を降らせてライディングを披露してもらっています。また音楽のライブや飲食店の出店などもあってお祭りのようなイベントになっています。そこで骨髄バンクや献血のブースを置いてみんなに知ってもらおうというわけです。
このまま治療できずに死んでしまうのかなって不安に感じました。
ー 人工の雪を降らせるんですか?凄いですね!!スノーバンクを始めたきっかけは、ご自身の闘病生活からだということですが。
えぇ、僕自身が6年前に骨髄移植を受けたことがきっかけなんです。慢性活動性EBウィルス感染症という100万人に1人の珍しい病気にかかったんです。病気の原因となるEBウィルスというのは、実は誰でも体内に持っているようなウィルスで、本来だったら免疫力が活動を抑えているウィルスなんだけど、免疫が勝てなくなっちゃって異常増殖すると臓器不全を起こして死に至ります。骨髄移植によって治った例がいくつかあると知り、移植手術に挑戦して、僕はなんどか元気になれました。
ー 骨髄移植で必ず治るということではなく、治った例がいくつかあるというくらい稀なんですね。
そうですね、当時世界的に見て2千例くらいしかありませんでした。なぜかというと、アメリカやヨーロッパの人がならない病気で、日本を含めたアジアの人しかならないからなんです。病気にかかる人の範囲が狭いので、薬を作ったとしてもあまり売れないから研究が進まないんです。薬もない、治療法も確立されていない、原因もわからない、という状況の中で骨髄バンクに助けられました。
SNOW BANKでは骨髄バンクの普及のための啓発活動を行っている
ー ドナーを探すのって大変なんですか?
大変ですね。骨髄には血液型のようにHLA型という型があって、それがフルマッチしていないと基本的に提供できません。一致する確率は、他人だと数万部の1。親でもやっぱり数万分の1。
ー 親でも確率がそんなに低いんですか!?
他人と他人がくっついて出来たのが子供なので、そういう意味では親は、ほぼ他人。だから同じ環境でつくられる兄弟が一番近くて、その兄弟でも4分の1の確率です。
ー それでも4分の1なんですね。ご兄弟はダメだったんですか?
1人いるので検査してもらったけれど僕の場合は一致しなくて。その時は相当へこみましたね。骨髄移植自体が大変なんだけど、そのスタート地点にすら立てないと思うと、このまま治療できずに死んでしまうのかなって不安に感じました。その時に骨髄バンクの存在を知りました。日本には骨髄バンクというのがあってそこに患者登録すると、全国で登録してくれたドナーさんをデータバンクから探すことが出来る。それを知った時は嬉しかったですね。
子どもたちがソリで遊ぶこともできる
ー 骨髄バンクに登録してからdazeさんにマッチするドナーの方に出会えるまでに時間はかかりましたか?
はい、僕の場合は時間がかかりましたね。患者登録した最初の時点で、「荒井さんとフルマッチしているドナーさんはデータバンクに14人いる」と言われました。それを聞いた時、多いか少ないか、わかなかったけど実際は少なかったんです。結局その中から提供できるコンディションにある人は見つからなかったからです。フルマッチしていても、14人全員が無職で何もしてない人かっていうとそうではない。働いていたり、家族がいたり、登録して5年10年たっていたら病気をして健康状態が悪くなって提供できないコンディションになっていたりする。家族が増えて子供ができていると「なんで健康なあなたが入院して全身麻酔して1リッターの骨髄抜くの?」って反対されるかもしれない。単純に住所変更がされていなくて連絡がつかない場合もある。いろんな要因があって僕は14人の中から見つけられなかったんです。結局僕に合ったドナーさんに出会うまでに半年かかりました。
代々木公園に雪が降る
ー ではドナーさんが見つかったというだけでは全然ダメなんですね。
そう、そこが問題点。だから14人じゃなくて、100人200人って言われるような環境にならないといけない。そうしたら1人くらい提供できる人がいると思うから。マッチするドナーさんが14人って言われても、患者の勇気が湧かないんです。これが100人200人って言われたらもっと安心できる人もいるだろうなと思って、その時にこの状況を絶対変えたいなって思いました。単純に14人って言われてへこむんじゃなくて、生き残って100人200人とマッチするって言われる社会作らなきゃいけないな、生き残ったらそれができるんじゃないかなって。病気を治して自分がまたプロスノーボーダーとして復帰して活動を続けていけば、そんな環境を作るきっかけにはなれるかなと思いました。
ー その時、「14人」という数字と向き合った結果が今の活動に繋がっているんですね。待っている間も病気は進行していくから気持ち的にもつらいですね。
待っている間は抗がん剤を打ちました。髪は全部抜け落ちて、顔もメロンパンみたいに膨れてぶつぶつになった状態で半年くらい過ごしましたね。
トッププロのスノーボーダーたちがライディングを披露