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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 011
YUKI SAITO
October 26, 2014

r-lib | r-lib編集部 れみ × 斉藤 勇城 声なき声を届ける使命

GENRESArrow文化

声なき声を届ける使命

エンジンもコンパスも使わないで、風だけを頼りに数百キロも航海する。空を飛ぶ鳥や、波の向きなども針路の判断材料になる。番組では嵐の気配がある中、被災した島へ救援物資を届けに行く舟にも帯同した。真っ暗な夜の海を、星を頼りに航行する際、斉藤さんは転落したら絶対に助からないだろうなと思ったそう。

Reported by Editor Remi


ー 逆に、つらい事ってどんなことがありますか?

 辛い事は、腐るほどありますよ(笑)。飛行機が飛ばなかったり、ビザが下りなかったり、賄賂を要求されたり。北極で吹雪かれたり。
 1番忘れられないのは、「小学校への英語授業の導入を教育現場はどう受け止めているか」というテーマで番組を制作した時です。ある英語の苦手な若い先生が、問題提起になるなら授業を撮っていいよって協力してくださったんです。英語が苦手なのに、英語を教えている場面をカメラに映していいよって言うのは、教師としては、相当な勇気が必要だと思うんです。でも彼はそれを許可してくれたんですね。
 僕はその言葉に甘え、現場の先生がいかに困惑しているかを伝えるため、先生がうまく英語を教えられないようなところを強調して番組にしました。放送後、人づてに、先生は実は非常にショックを受けている、先生だけでなく同僚も生徒たちも落ち込んでいる、と聞きました。
 事実を伝えているし、問題提起としても意義あるものだったとは思います。でも、番組の持つ影響力、まわりの人間関係、特に生徒達に及ぼす影響について想像力が全く貧しかったと猛省しました。 








【撮影の舞台裏風景】


大氷原で野宿。いつ氷が割れるかわからない。



ミクロネシアの絶海の孤島で撮影。 民家を一軒借りて滞在。 





撮影したテープの内容を通訳の末永さんとチェック。 


どうせ日本の放送を観れないだろって思った瞬間に放送倫理は失われる


ー 出ている本人の思惑とは違う形で編集されるとキャラも随分変わってしまいますよね。長い間撮影してても、放送するのはその極一部だし、どれをピックアップするかで本当にストーリーもキャラも全然変わってきますもんね。その辺は私も、昔ある番組に出演していたことがあるので、凄くわかります。海外で取材した場合は相手は放送が観られないのでそういう問題は起きにくいと思いますが、それでもやっぱり気を付けているんですか?

 もちろんです。海外でひとつ気を付けているのは、どうせ日本の放送を観れないだろって思った瞬間にやっぱり放送倫理って失われると思っていて、たとえTVのない場所での撮影であっても出てくれている方が観たらどう思うのかというところは常に意識しています。番組の制作においては、第一には、もちろん視聴者の方々にどれだけ何かを残せるかっていうのを考えますけども、それと同じくらい出ていただいた方が、たとえTVを観れない環境にあったとしても、斉藤の番組に協力して良かったなって思ってもらえるように作っていくことが非常に大切だなと思ってます。



撮影の最終日に。島の方が笑顔で送り出してくれたのが何よりの喜び。 


ー お話を伺っていると、とても仕事に対する熱意があって激務なのかなぁと想像するんですけど、プライベートではどんなことされているんですか?個人的に海外旅行とか行かれるんですか?

 プライベートはサーフィンばっかりしてて、休みの日は基本的には海に行くことが多いです。場所は実家がある茅ヶ崎が多いですけど、でも高知局に5年半いた関係もあって、高知の海にも時々行ってます。水もきれいですし、食べ物もおいしいし、人も最高です。僕NHKから内定もらった時に、その瞬間から赴任先は高知か宮崎がいいなと思ってました。波がいいので(笑)。初任地希望調査票っていうのがあるんですね。第三希望まで書けるんですけど、第一希望高知、第二希望宮崎、第三希望の枠を塗りつぶして消したくらいですよ(笑)。それで出したら、本当に高知にしてもらって。高知に決まった時は天にも昇る気持ちでした。今考えると本当に舐めてたなと思います。もちろん高知に勤務中はまだ社会人に成りたてで、仕事もほとんどできなかったから、サーフィンする余裕っていうのは実際はそんなになかったんですけどね。でも自然環境が本当に豊かな所で仕事させてもらって、ライフスタイルとしてはこれを仕事にできて最高だなって思いました。
 個人的な海外旅行は学生時代がほとんどですけど、カンボジア、マレーシア、タイ、ネパール、インド、ケニア、タンザニア、あとコスタリカ、キューバとか行きましたね。



サーフィンをしている斉藤さん


「世界は違うから面白い」


ー それでは、斉藤さんにとって『地球イチバン』で伝えたいものとは?

 『地球イチバン』の撮影ではいつも、自分の小ささを感じます。大氷原とか、大海原の真ん中とか、自然がちょっと動いただけで人間ってもう太刀打ちできない。あの氷河が崩れたら、絶対死ぬなとか。夜中の海で、舟から転落したら、絶対に助からないなとか。自然を前にしたときの人間の小ささを感じてきたので、それをうまく表現していきたいですね。
 あと、地球イチバンという番組では、「世界は違うから面白い」をキャチフレーズにしていて、異文化の違いやズレを伝えたいと思っています。例えば、アザラシをいじめたら逮捕されてしまうハワイのような文化があり、逆に、10歳のハンターが自らアザラシを殺し、さばいて生で食べる北グリーンランドのような文化がある。オデコにわざと傷をつけるアフリカの少数民族なども日本人には理解できない風習を持っていますよね。そういうふうに、地球上には簡単に共感できないことが沢山あるんですけど、わかりにくいところをどんどん省いていってシンプルにしていくんじゃなくて、「なんかちょっと抵抗あるし、よくわからないし、共感できないけど、でもなんか気になる」そういう感覚を、番組を観終わったあとに感じてもらえたら嬉しいです。わからない事をわかったように見せるというのをやってしまいがちだと思うんですけど、わからないものはわからないんだって事を、違うこともあるんだって事を伝えるのを目標にしていますね。



ー 私たちも記事にする上で編集作業をしているので、斉藤さんの報道に対する姿勢はとても勉強になりました。今日は貴重なお話をありがとうございました。今後の番組も期待しています!!




夕焼けが綺麗でした!!









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斉藤 勇城

斉藤 勇城YUKI SAITO

PROFILE

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プロフィール/斉藤 勇城(さいとう・ゆうき)

1981年東京生まれ 横浜育ち
NHK文化・福祉番組部ディレクター
2006年NHK入局 高知放送局に配属 
2011年より紀行ドキュメンタリー番組「地球イチバン」制作班に所属


主な制作番組

NHKスペシャル「仁淀川 青の神秘」・新日本風土記「仁淀川」(2011-2012)
四川テレビ祭 自然・環境部門のアジアプロダクション賞
ABU賞 TV perspective award commendation賞
モンタナシネ国際フィルムフェスティバルHonorable Mentions for Cinematography
NHK技術選奨全国大会 最優秀賞
日本映画撮影監督協会賞(JSC賞)
第5回DEGアワード「ベスト高画質賞企画映像部門」ノミネート
平成23年度文化庁芸術祭参加
地球イチバン「世界最北の狩人 ポーラーイヌイット」(2013)
地球イチバン「戦乱前夜に咲いた花 地球でイチバン新しい国・南スーダン」(2014)
第51回ギャラクシー賞選奨
第9回UNHCR難民映画祭 オープニング上映
地球イチバン「世界最後の航海民族 中央カロリン諸島」(2014)

by r-lib編集部 れみ
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