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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。

r-lib | 並木 麻衣 - 「そんなに簡単に支援はできないの」

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「そんなに簡単に支援はできないの」

Written by MAI NAMIKI



7月の頭頃、友人Mさんにくっついて、彼女の友人の街を訪ねたときのこと。
「我が家が大変なことになっているから来て欲しい」
と、通りすがりの親子に声をかけられました。

パレスチナ人のムハンマドさん、40歳。エルサレムのシルワーン在住。
彼が「大変なこと」と言うのは、エルサレム特有の入植者問題のことです。

入植者。
ざっくり言えば、本来はパレスチナ人のものである土地や家に住む
イスラエル人のことですが、問題はそのプロセスや、パレスチナ人の権利です。
例えば、嫌がらせを続けてパレスチナ人をうんざりさせた後、
破格の高値で家を買い取ったり、借りたりする過激なイスラエル人がいるのです。
(彼らにはイスラエルの一般市民もドン引きしていたりする)

彼の場合は3年間、家の上階に住む入植者に悩まされ続けていました。
同じ建物の5部屋をイスラエル人の入植者が買い取り、
パレスチナ人はムハンマドさん一家だけ。
彼を追い出したくて、入植者達が毎日のように嫌がらせをするのだそうです。

例えば彼らは、上階からゴミを捨てる。家に押し入ってくる。つばを吐きかける。
隣から2部屋を奪い取る。足を踏みならす。敷地内に入り、朝4時から大騒ぎする。

それでも、ここはムハンマドさんが選び、一生懸命働いて買った土地。
150年ほどの歴史をもつアンティークの家に、
手をかけ、時間を費やして、整えてきた大切な家なのでした。

「毎回警察を呼ぶけれど、嫌がらせは止まないんだ。
何とか支援をくれよ。どんな支援でもいい。金でも、服でもいいんだ。
NGOだろ? 何か手はないのか?」

最初に訪ねた時、彼はとにかく「Musa'ade(支援)」を求めていて、
自分の予算なんか持たない私は
「ごめんなさい、私はNGO職員だけど、そんなに簡単に支援はできないの」
と謝り倒していました。
NGOだって、企業と同じで年間計画や目標があります。
資源だって限られているし、あらかじめ活動や焦点を決めているのです。
でも、家に帰った後も彼の表情と言葉が私の頭の中をぐるぐるしていて、
「なんで私は、困ってる一家族すら何とかできないんだろう?」
「外国人ができることって、一体なんなんだろう?」
と考え続けていました。


また訪ねたら、やっぱり彼に支援支援と言われるんだろうか?
この無力感と苦しい気持ちに、どう折り合いをつければいいんだろう?


気が重いなぁと思いつつ、二度目に彼らを一人で訪ねた今日。
改めて話を一から聞き直して、何にどうお金がかかるのか聞き、
何に困っているのかを洗い出しました。
団体は難しいけど、私が友人として動くから、とハッキリ伝えて向き合ってみたら、
「支援」という言葉は最後には消えて、問いかけに変わっていました。


「やれることは全部やったんだ。
あとは自分に何ができるのか、教えて欲しい。
俺は当たり前の人権がほしいんだよ」


そう問いかけてくる彼の、強固な意志と諦めの混ざった目を見つめながら、
NGOとしてではなく、彼の友人として何ができるのか、考えています。
うーん、まずは監視カメラかなぁ。。。秋葉原で調達するか。



(取材ノート。)


※ムハンマドさん、テレビに出てました。(アラビア語だけど)





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