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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 025
JIRO ITO
May 04, 2015

r-lib | 李 雨瀟 × 伊藤 次郎 「死にたい 助けて」宛先の無い叫びに宛先をつくる

GENRESArrow福祉

「死にたい 助けて」宛先の無い叫びに宛先をつくる

自殺リスクの高い人たちに対人援助職が直接関わる、日本で数少ないNPO法人であるOVA(オーヴァ)。夜回り2.0と呼ばれるその手法は、アドテクノロジーによって自殺に追い込まれている人を特定し、関係機関につなぐことを可能にしたアプローチです。

Reported by Yuisho Lee



ー 広告費もご自分で負担されていると聞いているのですが・・・

 1年くらいはそうでしたね。去年結婚したんですけど、この活動を始めた時はそろそろ結婚をしようと考えている時でした。今から結婚して子育てしてっていう時に、自分の全財産投じてこういうことするのって、普通におかしいですよね(笑)。当時は自殺とは直接関係のない、収益があがる事業を始めようと思って準備していたんですよ。でも、「死にたい 助けて」という心の叫びを見つけて・・・見つけたからには他でもない自分がやるしかないと思ったんです。この活動は今までお金をもらっていた相談を全て無料化することであり、今後も収益化の見込みもないスキームです。むしろ払い続けるという・・・それはわかっていましたが、それでもこれを選んだんです。




そういう事ができる人がこの世にいて欲しい


ー 結婚する時の周囲の反応ってどうだったんですか?

 賛成はしないですよね(笑)。「あなた、自分でお金払ってなんで見ず知らずの人の悩み聞いてるの?」って(笑)。広告費もかかるし、自殺しようとしてる人と関わると時間にリソースが割かれるということも、最初からわかってました。始めたら、思ってた以上に時間がかかりました。緊急性の高い連絡も多いので、これが生活の中心になっていくわけです。そうすると他の仕事できなくなっちゃうんですよ。当時は自営業だったんですけど、それを潰してこっちをとりました。もちろん収益はゼロで出費ばかりです。貯金してたんですが、1年くらいでお金も尽きちゃいましたね。しばらくこれらの相談活動は全て自費でやっていましたが、NPO法人化もして、最近はようやく補助金をいただくことができるようになってきました。でもいまだに私自身は食べれてないですね(苦笑)。


ー 凄い・・・本当に凄いです・・・お金もらってもやれない人がほとんどだと思うんですけど、更に私財を投じてまで・・・その使命感はどこからくるんですか・・・???

 
 意味不明かもしれないですけど、でもそういう事ができる人がこの世にいて欲しいんですよね。








- 誰かが始めないといけないってことですよね・・・10年後20年後、こういう活動が当たり前になる日が来ると。その先駆けを誰かがしないといけないから自分がしようって事ですよね。

 そうです。私達は検索エンジンを自殺ハイリスク者のスクリーニング機能としてみなし、自ら援助機関に行けない人にリーチしています。私達のような考え方では、今はまだ誰もやっていないですが、そのうちスタンダードな考え・手法になると確信しています。今まで自殺リスクが高い人を特定することは難しかったんですが、ネットは特定が可能で、しかも費用対効果も測定できて費用も格段に安い。2013年の運用だと相談者1人につき、かかった広告費(CPA)が150円以下でした。つまり、非常に合理性が高いのです。日本だけでなく世界に、自殺だけでなく、あらゆる分野で、この考え・手法を広げていきたいと思っています。


- 実際アドバイスする時に、そこにやりがいを感じるのはどんな時ですか。よし、助けた、と言うような。

 う〜ん、難しいですね。そもそも助けたという感覚ないですし、私も必死なので「やりがい」という言葉で表現できる事はないのかもしれません。





- そうですよね・・・アドバイスする一言で生死が左右されることも・・・

 自殺の相談なので、そういう緊張感は常にあります。特にメールの場合、対面や電話と違って相手の反応がリアルタイムで見れないんですよね。だから、相手の解釈をなんども想像して、メールを打たなければならないんです。すごく時間も頭も使います。履歴も全て残りますし、そして情報量が圧倒的に少ない。対人援助職としては、リスクの面でも支援する方法として最も使いたくないツールとも言えます。活動当初はメールで連絡してもらったあとに、電話でこちらから誘うことが多かったのですが、彼らのほとんどが、メールで相談したいという態度を示したので、メールでのやりとりをメインにする決断をしました。

他者の痛みに無関心でない社会をつくっていきたい


- そんなリスクを背負ってでも人を助けたいというエネルギーはどこからくるんですか?

 助けたいという言葉を私は使わないのですが、私が出会う人たちは死にたい気持ちを誰にも言えずに一人で苦しんでいることが多いです。人生の中で、ものすごく苦しんでいる時に自分の辛い気持ちを誰かに言えないという孤独こそが最も苦痛なことだと私は思います。せめてそういう人たちの話を聞いてなんとか苦痛を和らげたい、他者の痛みに無関心でない社会をつくっていきたい、そういうところかなぁと思います。




- そっと寄り添う、みたいなイメージですね?

 アドバイスするというよりは「今まで辛かったですね」と気持ちを受け止め、「あなたが今抱えている事はなんでしょうか。一緒に考えましょう」と話を聞いて一緒に考えていくというスタンスです。だからこっちから積極的にアドバイスをする感じではないですね。まず「きく」ということです。


- 冷静な心理状態に戻して、それで自分で解決できることもあると。

 物事のとらえ方が変わるだけで、気持ちが楽になるというパターンもありますが、実際には具体的に問題を抱えている事が多いので、それぞれ抱えている問題の専門家等の力を借りながら、徐々に解決していく感じです。





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伊藤 次郎

伊藤 次郎JIRO ITO

PROFILE

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伊藤次郎(Jiro Ito)
NPO法人OVA 代表理事
学習院大学法学科卒業

 メンタルヘルス対策を企業に提供する人事コンサルティング会社を経て、都内精神科クリニックにて勤務。主にうつ病で休職しているビジネスパーソンの復職支援を行った。2013年6月末に若者の自殺が増加傾向にあることにに問題意識が芽生え、マーケティング・テクノロジーの手法で自殺ハイリスクの若者のリーチしようと「夜回り2.0(InternetGatekeeper)」の手法を開発・実施し、2014年7月にNPO法人OVAを設立した。

by 李 雨瀟
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