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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。
# 022
ATSUSHI BITO
February 21, 2015

r-lib | 筧 沙奈恵 × 尾頭 厚 ブラックジャック体験を通して好きなことを見つけて欲しい

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ブラックジャック体験を通して好きなことを見つけて欲しい

心臓外科にとって一番大切なのは「続けること」という尾頭先生。手術時間は長時間に及び、命を左右する大きな手術が多いためにプレッシャーも相当なはずです。そして、「やるべきことをきちんとやること」これもとても大切なことだそうです。

Reported by Sanae Kakei


— お医者さんになりたいって子が出るかもしれないですね。

 医者になりたいという子が出るかもしれないし、看護師さんっていいなと思う子が出るかもしれない。そういう直接的なことじゃなくても、医療を見る目がちょっと変わるかもしれないし、何かこれから興味を持ってものを見るようになるかもしれないし、何が起こるかわからないじゃないですか。自分たちだって、三宅島に行って子ども相手に授業をするなんて思ってもみなかったですから(笑)。



地域によって子どもたちの反応は違うが、好奇心が旺盛なところはどこも同じ


— 三宅島ってお医者さんが少ないという問題もあったりするんですか?

 ありますね。実は一緒に行った看護師さんは三宅島の出身で、そのつながりで行くことになったんですが、三宅島の1番大きな問題は島全体が過疎ということなんです。もちろん医療体制も診療所が1つあるだけ。それも、自治医大を卒業した先生方が順番で赴任するという体制なんです。内科の先生だと思いますが、それも1人か2人なんですね。1年くらい赴任したらまた交代で東京から新しい先生が赴任するという体制で三宅島の医療を支えているようです。


— じゃあ緊急手術の時ってどうするんですか?

 診療所の先生が診察して、手術が必要だと判断された場合は、緊急性がなければ船に乗って竹芝桟橋に行くんですが、緊急性があればヘリコプターを出して都立病院に行くそうです。その辺の医療体制の話も、向こうの先生としてきました。その時はNHKさんも同行してくださって、三宅島の医療をこれからどうするかというテーマで出張授業を取り上げてくださったんです。それによって世の中の人が三宅島の医療についてちょっと考えてくれたり、子どもたちも含めた島民の人たちが、自分たちのコミュニティ、教育、医療をどうするか考えることにつながっていったらいいなと思いますね。出張授業はそういう意義もあるかなと思います。三宅島に行けたのはすごくいい体験でしたね。



心臓血管外科のスタッフが中心となって出張授業をおこなう


— 色々な人に影響を与えられるやりがいってあると思うんですけど、それ以外にやりがいってありますか?

 やりがいというよりは、僕個人の問題なんですが、僕もこのぐらいの頃に医者になりたいと思ったんですよ。でも親戚に誰も医療関係の人はいなくて。その時に、こういうのがあったらいいなぁって、実は子どもの頃にちょっと思った事がありました。子ども心に思っていたことが今できているというのはやりがいの一つです。もう一つは、出張授業をやっているこちらが楽しいということが大きいですね。自分たちにとってリフレッシュにもなるし、子どもの頃に思ったことも実現できる。周りのスタッフもそういう事をやりがいに思っているかもしれないですね。


— やりがいもあって楽しいという印象を受けますが、なにか大変なことはありますか?

 基本的に大変な思いはあまりしません。大変というか、それも楽しみの一つではあると思うんですよね。あとは事務的に大変という意味では、やっぱりこれをやろうとするとお金がかかるわけですよ。三宅島に行くのであれば、往復の交通費や宿泊費だったり、マスクや帽子、ガウンといった実費も実は結構かかるんです。住友生命さんのCSRでやる場合は住友生命さんがスポンサーになってくださいますし、三宅島の場合は菊名記念病院のCSRの一環としてやりました。そういった資金作りも大事なことですよね。




— 先生がお医者さんになろうと思ったきっかけはありますか?またなぜ心臓外科を選ばれたのでしょうか?

 よく聞かれますけど、医者になろうと思ったのは興味があったからですね。その一言につきますね。


— 何か漫画とか見てですか?

 もちろんブラックジャックは読んでました(笑)。でもまぁ、そういう事に興味があったんだと思います。興味があって、それに対して好奇心があったということですね。私の子ども時代にこういう授業はもちろん無かったし、周りにも医者はいなかったし、別に親が入院していたというわけでもないので、身近に接点はなかったんです。じゃあなんで?って思うと、興味があって、知らないながらに憧れていたんだと思うんですよね。なんで心臓外科なの?と言うと、それは医学部に行って国家試験を通って医者になっていくと、もっといろんなものが見えてくるじゃないですか。現実も見えてくるし。理想と現実が全く違うことも見えてくる。でもそういう中でも、やはりこれも興味があったからとしか言いようがないですね。




— お医者さんの中でも心臓外科の手術は、手術時間も長そうだし、集中力とか手先の器用さとか、また少し違う資質が大事そうですよね。

 ものすごい器用さはそこまでいらないと思います。普通の人の器用さと、努力ができる人なら技術的にはできるかもしれないですね。


— じゃあ手術においては、器用さよりも状況判断とか臨機応変に対応することが大事になってくるんでしょうか?

 それは必要ですね。もちろん器用さも1つの要素であるし、その時の状況判断も、体力も気力もいろんな知識も必要になってくると思います。だから器用さ一辺倒ではもちろんダメですね。あともうひとつ心臓外科において大事なことって、続ける事だと思うんですね。嫌になって辞めちゃう人がすごく多いので。




— そうなんですか?そんなに大変なんですか?

 いろんな理由があると思いますが、心臓外科は転向していく先生が他の外科に比べればすごく多いです。

やっぱり続けることが大事なんです


— プレッシャーですか?かなり精神力を必要としそうですもんね。緊張して手が震えるとかもありそうですし。

 精神力もあるかもしれないですけど、でも、やっぱり続けることが大事なんですね。手が震えて、どうしても自分には向いてないと言って辞めていかれる先生もいますけど。でもそれも、続けられなかったということ。結局続けられるっていうのは、好きじゃないとダメなんでしょうね。その状態がずっと保てれば続くんじゃないかなと、今になってはそう思いますね。



心臓外科は転向していく先生が多いほど激務だそう


— 続けることが重要な資質なんですね。辞めたくなる時とか、つらい時ってあるかと思うんですけど、そういう時はどうやって乗り越えるんですか?

 秘密です(笑)。いえ、それは自分でもわからないですね(笑)。心や体の持ちようだったり、周りに支えられたりという事はあるかもしれないですね。実際に仕事をやっていくと、段々みんな疲れてくるじゃないですか。自分も含めてですけど、ずっと毎日毎日同じ仕事を何十年もしていくと、きっと疲れて、自分がこの仕事を好きでやっているのか、わかんなくなることってあると思うんです。だからこそ、この出張授業はリフレッシュという面でも僕にとっては大きいと思っています。

好きだからやってるんだと子どもたちの前で恥ずかしげもなく言う場面があってもいいのかな



— 子どもたちを見て初心を思い出す感じですか?

子どもたちに授業をする時はいつも、好きな仕事を探しましょうという締めくくりにしてるんです。実際こういう仕事をやってる人間が、好きだからやってるんだと子どもたちの前で恥ずかしげもなく言う場面があってもいいのかなって。それだけで意味があるかなって思います。



患者さんにとっては命を賭けた手術

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尾頭 厚

尾頭 厚ATSUSHI BITO

PROFILE

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菊名記念病院 心臓血管外科部長

昭和大学医学部卒
医学博士

昭和大学医学部兼任講師
心臓血管外科専門医
心臓血管外科専門医認定機構修練指導者
日本外科学会専門医
日本外科学会指導医
日本胸部外科学会認定医
日本胸部外科学会正会員
胸部ステントグラフト実施医
腹部ステントグラフト実施医・指導医
日本心臓血管外科学会国際会員
ICD/CRT研修修了医
血管内レーザー焼灼術実施医
臨床研修指導医
昭和大学病院、昭和大学藤が丘病院
新東京病院などを経て現職

by 筧 沙奈恵
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