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CONCEPT
これからのかっこいいライフスタイルには「社会のための何か」が入っている。社会のために何かするってそんなに特別なことじゃない。働いてても、学生でも、主婦でも日常の中でちょっとした貢献ってできるはず。これからはそんな生き方がかっこいい。r-libではそんなライフスタイルの参考になるようなロールモデルをレポーターたちが紹介していきます。

r-lib | 編集長S - 編集長コラム 中東紀行その3

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編集長コラム 中東紀行その3

Written by Editor in chief



さて、ザータリ難民キャンプの話ですが、実際に僕が見た光景は表面的なものだったから何もわかっていない、ということは事実だろうなと思います。これは実際の状況がもっと良いのか悪いのかということは関係なく、です。というより、一概に良い悪いなんて言えるはずがないくらいに複雑なものだということです。



確かに僕の感じた第一印象は「思ったほど悪くないな」でした。でも、いわゆる「真実」なんてわかるわけないんだ、という気持ちがそんな印象を吹き飛ばしていきました。

僕が長い間何も書けなかった一番の理由がここにあります。正直わからないんです。言葉にして断定していくと、それが自分がみた「真実」となって確定してしまいそうで曖昧にしておくしかなかったんです。

「思ったほど悪くない」と言ってしまった瞬間に、そうではない事実に出会ってしまいそうだし、なによりひとりひとりの生身の人間が持っている、シリアから引きずってきた時間の流れを感じることはできないということを痛感したのです。



それは、「他人の心の底を覗こうとしたら真っ暗で何も見えなくて怖かった」というか、何も言えないことが正しいとさえ思えた経験でした。





取材である家庭にお邪魔させてもらったとき、その家庭のお父さんがいろんな話をしてくれました。みんな真剣に耳を傾けていたけれど、僕は全然集中できなかった。

1時間以上はそこにいたでしょうか。ずっと話を聞いてる時に、隅っこで微動だにせずに一点を見つめているお婆さんが、僕は気になって仕方なかった。彼女は最後まで一言もしゃべらなかった。僕らと目を合わせようともしなかった。ただ一点だけをずっと見つめて座っていたんです。

彼女に何があったかはわかりません。もしかしたらアラブはこういう文化なのかもしれないし、彼女の性格かもしれません。

ただ、そのとき僕が強烈に感じたのは「わからない」ということだったんです。



この場所について書くというのは、言葉を裏切ることになるんじゃないかという気がしました。言葉に嘘をつかせることになるから。

そんなこといったら世の中の現象はみんなそうなのかもしれない。多面的で複雑でいろんな解釈ができるから。でも多くの場合は、少なくとも自分だけは納得できる解釈をして、人は理解しようとします。

ただ、このお婆さんは僕のそんな解釈を拒絶するような何かがあったんです。何も解釈させてくれない沈黙。

「他人の心の底を覗こうとしたら真っ暗で何も見えなくて怖かった」


僕はファインダー越しにずっと彼女を見つめながら途方に暮れていました。


家を出たとき軽いめまいがしたのは、座り続けていたからか、日差しが強かったからかはわかりませんが、「どうしよう・・・これじゃ何も書けない」という思いが現実味を帯びてきたのです。


つづく

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