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r-lib | 編集長S - 編集長コラム 中東紀行その2

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編集長コラム 中東紀行その2

Written by Editor in chief

こんにちは。編集長のSです。

前回は、久しぶりに中東に行ったけど特に衝撃を受けなかった、というところから話始めました。

それではそもそも何故7年ぶりに行くことになったのかというと、r-libで取材させてもらったNHKの斉藤ディレクターと、国際NGOのJVCで働く並木さんがちょうど同じ時期に現地にいると聞いたからです。

斉藤ディレクターがいるのは、世界最大のシリア難民キャンプであるザータリ難民キャンプだったので、なんとかその取材をしたいと思い、入手困難なパスを取得して同行させてもらいました。

僕は難民問題を常に追いかけているので、ザータリ難民キャンプはずっと気になっていました。現在は8万人が暮らしていて、一時期は20万人もいたという超巨大キャンプです。キャンプ開設当初は凶悪犯罪が横行し、衛生状態も極めて悪かったという話でした。



さて、そんなザータリ難民キャンプに入ることができたのですが、今まで聞いていたような悲惨な状況を目にすることはありませんでした。

もちろん私たちの環境よりも過酷な状況にいるのは間違いありません。単純に、僕がそれを目にする取材能力がなかったのかもしれないし、国連やNGOなどの援助機関がこの数年努力した結果ともいえます。



ただ、誤解を恐れずにいうならば、衝撃的な光景を期待していた自分は少し肩透かしをくらったような気分になったのです。「あれ、思ったよりも状況は悪くないな・・・」と。

そして、そこで自分は人の不幸な姿が見たかったんじゃないか、人の不幸を高みの見物して、帰国してから「こんな悲惨なところに行ってきました」という武勇伝を記事にしたいという気持ちがあったんじゃないかと思うようになりました。そんな浅ましい気持ちがあったと今でも思います。

日本にいる人はシリア難民というと、ステレオタイプなイメージを持っていると思います。程度の差こそあれ、現状を直接見ていなかった自分もそれにあてはまります。そして、そんな自分のイメージを補強してくれる記事になるような事実を求めていたし、世間もそんな悲惨な記事を求めてるのかもしれない。

そこには、欲しい記事に合わせて事実を探そうとしてる自分がいました。



「ここの状況はこんなに悲惨です!」という情報は駆け巡るけど、「悲惨だった状況もこんなに改善されました!」という情報はあまり出回らない。もちろん皆無ではないけど。それは震災のニュースを比較すればわかることです。

だからそういう気持ちがあるなら、キャンプの人たちにも、頑張っている援助機関の職員の方たちにも申し訳ないし、合わせる顔がない。

「思ったほど悪くなかった」こんな感想はやはり言えなかったのです。

もちろん悲惨な状況にあるのは百も承知です。

故郷を追われ、仕事や生きがいを奪われ、愛する人を亡くした人も多いでしょう。それを「思ったほど悪くなかった」なんて言われたら、当事者からしたら本当に許しがたい暴言だと思うし、彼らの尊厳を踏みにじる言葉だなと自覚しています。

こんな気持ちを表明するのは、人間性が疑われるし、言葉を尽くさないと誤解を招くだけだと思いますが、僕が今回の取材旅行で一番取材すべきなのは自分の心の中だと思ったので、書いていくしかありません。

記事にするという行為は、事実を切り取る編集過程が入ります。その過程で、執筆者は自分がもっていきたい方向にまとめようとするものです。だから、執筆者自身が抱えるバイアスに向き合うことはとても大切で必要なことです。今回の旅は、それを僕に改めて教えてくれたのです。







つづく

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